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第9回 「求められる健康経営」 ①

健康経営が求められる社会的背景


何気なくいつも通り仕事へ向かう毎日を過ごしていますが、一般的に労働者は仕事に没頭すればするほど長時間労働になりがちであり、この様な勤務状態が継続することは業務に起因する脳・心疾患や精神障害の発生率を増加させ、労働者の健康を害する恐れを生じます。

企業は「従業員が健康に働き続ける」ことを通じて業績や企業価値の向上を図っています。「従業員が健康で働きやすい職場づくり」を進めることは、従業員の働く意欲を高め、労働生産性を向上させることに繋がります。またこのような取り組みを進めていくことは労働紛争などの経営リスクを低下させることにも一定の効果があるものと考えられます。

このように、従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に企業の収益性を高める投資であるとの考えのもと、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することを「健康経営*1」(NPO健康経営研究会の登録商標)と言います。

今号からは「健康経営」が必要とされる社会的背景や健康施策等について連続シリーズで取り上げていきます。

  • 「少子高齢化」の到来による社会的影響

    健康経営が求められる背景には大きな社会的課題の存在が挙げられますが、その根幹には「少子高齢化」の進展による生産年齢人口*2の減少があり、経済活動の停滞や社会保障費の支出拡大により財政負荷が増大していくことへの懸念があります。

    生産年齢人口の減少は、我が国の労働力の中核をなす年齢層の労働者が減ることを意味するため直接的に「労働力の低下」に繋がっていきます。その一方で65歳以上の労働者が増加することにより豊富な経験値に裏付けされた高い業務能力が発揮されることも期待できますが、疾病や身体の不調による欠勤が増えることも予想されます。あわせて、高齢化社会の進展に伴い、親の介護による欠勤や休暇取得、離職等が増加することも予想されるため我が国の労働生産性に影響を及ぼすことは避けられません。

    また生産年齢人口の減少は、「後継者難」や「求人難」、「従業員の退職」や「人件費の高騰」などを原因とする「人手不足倒産」をさらに増加させていく原因になることが予想されます。すでに運輸業、医療・福祉関連、建設業などの業種では人手不足が深刻化しており、仕事があるにもかかわらず人手が不足するために業務を運営することができず倒産してしまう企業があります。

    どの企業も優秀で即戦力となる人材を求めていますが、生産年齢人口が減少していくことにより、そのような人材を採用することはますます困難な状況になっていくことでしょう。

    高齢化社会の進展は、医療・介護・年金などの社会保障費給付を拡大させ、財政への負荷を増大させていきます。2022年には「団塊の世代」が75歳以上となりはじめることで後期高齢者が増え、2018年に約120兆円であった社会保障給付は我が国の経済成長を上回るペースで増大し、急速に財政がひっ迫することが予想されます。あわせて、企業や労働者が負担する社会保険料もより一層過重になっていくことが予想され、大きな社会的影響が生じるものと考えます。

少子高齢化が避けられない中、我々が抱える社会的課題に対する施策の一つとしては「健康で長く働く」ことが挙げられます。「健康経営」が業績や企業価値の向上に繋がることを理解しつつも、健康施策に対して積極的に投資する企業は大企業をはじめとする一部の企業に止まっており、全体の約97%を占める中小企業(小規模事業者を含む)では、まだまだ十分な取組みには至っていないようです。
 
日本の経済基盤を支える中小企業では、「経営者の情熱」、「少数精鋭の人材との連帯感」といった強みを持ちつつも、多くの企業が「採用難」による人材不足を感じています。
 
就活生が就職先に望む勤務条件についてアンケートを実施したところ、「福利厚生の充実度」と「従業員の健康や働き方への配慮」を重視しているとの回答が全体の4割を超えていました(健康経営の労働市場におけるインパクト調査「経済産業省第13回健康投資WG 事務局説明資料」)。
 
この結果からも、これからの企業経営において「健康経営」への投資は不可欠であり、経営戦略における重要な課題のひとつであることが伺えます。
 

健康経営*1:
従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性を高める投資であるとの考えのもと、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。

生産年齢人口*2:
国内の生産活動を中心となって支える人口のこと。経済協力開発機構(OECD)は15~64歳の人口と定義している。労働力の中核として経済に活力を生み出す存在であり、社会保障を支えている。生産年齢人口に対し、14歳以下を年少人口、65歳以上を老年人口と呼ぶ。

 

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