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第8回 「労働紛争への対応」 ④

ハラスメント防止への取組み


昨今、私たちが「ハラスメント」という言葉を耳にする機会が増えましたが、この「ハラスメント」には「パワハラ」、「セクハラ」、「マタハラ」、「セカハラ」、「リスハラ」、「モラハラ」、「アルハラ」、「カスハラ」・・・等々があり、その種類は数十にも及びます。また「昔はハラスメントなど存在しなかったのでは?」と仰る方も少なからずいますが、ハラスメントは存在していなかった訳ではなく、存在はしていたけれども、社会的な問題として表面化することが少なかったのではないかと考えます。

二十数年前、私の周辺でもセクハラ紛争となった出来事が発生したことがありますが、その当時はセクハラという言葉を耳にしたものの、それが身近に発生した出来事であると現実感を持てず、職場全体でもハラスメントに対する認識があまり高くなかった時代であったと記憶しています。

職場におけるハラスメントは労働者の健康を害し、職場全体の生産性低下に大きな影響を及ぼすことから、政府は働き方改革の中で「ハラスメント対策」に関わる法整備を進め、防止対策の強化を図っています。そこで今回は、その取組状況についてご紹介いたします。

  • 改正労働施策総合推進法*1の施行
    本ニュースの第5号でも触れましたが、厚生労働省に寄せられる「民事上の個別労働紛争相談」において「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は全体の約1/4を占めるまでに増加しています。「職場のいじめ・嫌がらせ」は労働環境を悪化させ、被害に遭った労働者の働く権利を侵害し、心理的負荷により「うつ病」などの精神障害を発病させる原因になります。

    政府は「働き方改革実行計画」の中で、労働者が健康に働ける職場環境を整備するために必要な取り組みとして、労働時間の管理を厳格化するだけではなく、労働者が上司や同僚と良好な人間関係づくりを進めるためのハラスメント対策やメンタルヘルス対策強化を掲げました。そして、その法制化として改正労働施策総合推進法(別名パワーハラスメント防止法)を令和2年6月1日に施行しました(中小企業は令和4年4年1日に施行予定)。

    この改正法は、法律として初めて「パワーハラスメント(以下 パワハラ)」の定義*2を示したとともに、パワハラを防止するために事業主が雇用管理上講ずべき措置として労働者の相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するための体制の整備等を事業主に義務付けました。
    この措置義務に違反した場合の罰則規定はありませんが、かかる義務違反は厚生労働大臣による勧告の対象となり、事業主がその勧告に従わない場合には、その旨を公表することになっています。

    あわせて、労働施策総合推進法の改正には、パワハラ同様にセクシュアル・ハラスメント(以下 セクハラ)やマタニティー・ハラスメント(以下 マタハラ)についても、パワハラ同様に不利益な取り扱い等を禁止することが明記されました。またこれと同時期に「男女雇用機会均等法」と「育児・介護休業法」を改正して施行したことでセクハラ等防止対策について実効性の向上が図られたことも法改正のポイントになります。

「職場のハラスメントに関する実態調査(令和2年度 厚生労働省)」報告書からは、「ハラスメントを受けた経験がある人」の割合は「ハラスメント行為をしたと感じた人/ハラスメント行為をしたことを指摘された経験がある人」の約4倍であることが読み取れます。この背景には、加害行為がハラスメント行為に該当することをハラスメント行為者が正しく認識していなかったこと等が原因として考えられます。
 
職場のハラスメントを防止するためには、職場に働く全員が「してはいけないこと」を正しく理解し、自らの行為がハラスメント該当するか否かを判断できるよう正しい認識をもつことが大切です。そして、労働者自身が被害者にならないように自分の考えや気持ちを我慢せず正直に周囲に伝えて相談すること、周囲にいる上司や同僚は被害者から発信される「 助けのシグナル」を見逃さない風通しの良い職場づくりを進めること(注視と寄り添う行動)が重要になります。
 
本改正に基づき、事業者は「風通しの良い職場環境作り」に向けた実効性のある取組みを実行してこそ、労働者が健康で安全に働ける職場を実現でき、ひいては企業の生産性向上に繋げることが可能となるでしょう。


改正労働施策総合推進法1*:
国の施策に「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決の促進」(ハラスメント対策)を改正労働施策総合推進法に明記(以下一部分抜粋)

  • 事業主に対して、パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務(相談体制の整備等)を新設。あわせて、措置の適切・有効な実施を図るための指針の根拠規定を整備
  • パワーハラスメントに関する労使紛争について、都道府県労働局長による紛争解決援助、紛争調整委員会による調停の対象とするとともに、措置義務等について履行確保のための規定を整備

「パワーハラスメント」の定義*2:
職場における「パワーハラスメント」とは、
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるものであり、
上記①~③までの要素をすべて満たすものをいいます。

 

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