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第6回 「労働紛争への対応」 ②

迅速な紛争解決手段としての労働審判制度

昨今、企業向けにコンサルティング業務を行う中で、「正当な理由のない不当解雇だ・・・」、「未払いの残業代がある・・・」、「管理職からパワハラを受けている・・・」など、雇用トラブルに巻き込まれた従業員からの申し出に対する経営者の悩みを聞くことが多くあります。

これらのトラブルへの対応は、企業にとって重要な経営判断のひとつになります。不当解雇を恐れず積極的に従業員の解雇を行う企業があれば、辞めてもらいたいにも拘わらず解雇できない企業もあります。

解雇は従業員にとって切実な問題であるので、従業員は様々な方法で紛争解決を図ろうとします。例えば、労働基準監督署に相談(前号で記述した行政による個別労働紛争解決制度を利用)したり、労働組合(労働組合を持たない企業の場合は個人で加入)を通じて労使交渉を行ったり、弁護士を立てて民事訴訟を行うなどの方法があります。

近年、労働者の働き方は多様化しており、労働紛争も複雑化しているため、民事訴訟に及んでしまうと、結果として解決に相当の時間を費やし、損害賠償額以上のコストをかけ、十分な納得を得られないまま判決に至ることもあります。その様な中、当事者は、紛争内容によっては長引かせることなく迅速に解決を図りたいと考えていることも多く、その解決手段の一つに「労働審判制度」があります。今号では、この「労働審判制度」についてご紹介します。

  • 労働審判制度
    労働審判は2006年4月に導入された民事紛争を解決する裁判制度であり、2019年度には3,665件の新規受件数(出典:司法統計 令和元年度「労働審判事件数 事件の種類及び新受,既済,未済 全地方裁判所」)が取扱われています。
    この制度は、①個別労働紛争について、②裁判官と労使の専門委員で構成される労働審判委員会が、③ 事件を審理(争点整理、証拠調べ等)し、④調停を試み、 ⑤調停が成立しない場合には、労働審判を出します。
    裁判との大きな違いは、原則として3回以内の期日で争点整理・審理・調停の全てを行い、調停によって解決できない場合には、解決案が決定される迅速性にあります(平成18年から令和元年までに終了した事件について平均審理期間は77.2日であり、その70.5%の事件が申立てから3か月以内に終了しています)。

    通常、労働審判は、労働者が申立人となって裁判所に「労働審判制度申立書等」を提出することで開始されます。
    第1回期日では、冒頭で争点及び証拠の整理をした上で証拠調べを行い、調停が試みられます。審理は申立書と相手方(会社)が作成する答弁書の内容を前提として行われるので、主張やその添付すべき証拠が不十分であると不本意な結果になることもあります。また、労働審判委員会で一旦形成された心証を覆すことは難しくなるため、第1回期日に向けて十分な準備を行うことが重要です。
    第1回期日は申立てがなされた日から40日以内の日に指定され、その10日~7日前には答弁書等の提出期限が設定されるため、相手方は準備に余り時間がないことにも注意が必要です。
    第2回期日では、第1回労働審判期日に行われた証拠調べや調停の内容を前提として、引続き、調停が試みられます。
    第3回期日では、引続き調停が行われますが、不成立となった場合には、審理が終結します。その後、この労働審判に対して当事者が2週間以内に異議を申立てることで労働審判は失効し、通常の訴訟手続きに移行して最初から主張立証を行うことになります。

労働審判は、「不当解雇トラブル」や「未払い残業代トラブル」などの従業員と会社との間の労働関係トラブルを通常の裁判より簡易・迅速かつ適正に解決するための手段ではありますが、「パワハラ」や「セクハラ」など録音・録画等の客観的証拠がある場合や「過労死」など労働行為との因果関係を認定するようなケースには余り適していないようです。

 

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