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第5回 「労働紛争への対応」 ①

労働紛争の増加とその背景

団塊世代の先輩方が築き上げてきた高度成長期には、業務中の死傷事故による労働災害が多発していました。その頃は「ケガと弁当は手前持ち・・・」と耳にしたほど、比較的軽い負傷は労働者の不注意として取扱われたことも多く、労働災害による労使トラブルは余り表面化していなかったようです。

その後、企業努力もあり死傷事故による労働災害は毎年減少傾向になりましたが、バブル崩壊後の日本経済成長神話が崩れ去り景気が低迷した頃より、残業手当の不払い、不当解雇、雇止めなどによる労働紛争が増加してきました。その他にも、長時間労働による脳・心疾患、いじめ・嫌がらせなどによる精神疾患が表面化しはじめ、昨今の労働紛争の原因は死傷事故による労働災害から業務上の疾病を含めた労働全般にまで幅広く及び、企業では変化・多様化した労務リスクへの対応が必要になっていることが伺えます。

代理店の皆さんは、日頃よりお客様から労働関連のお問い合わせが入ることで多くの問題に直面していることと思いますので、今号からは連続して「労働紛争への対応」をテーマに取り上げます。

  • 労働紛争の増加
    労働紛争には表面化していないものも多々ありますが、厚生労働省に寄せられた労働相談件数には以下が掲げられています。
    令和2年度の総合労働相談件数は27万8,778件。その内訳は「いじめ・嫌がらせ」79,190件、「自己都合退職」39,498件、「解雇」37,826件となっており、「いじめ・嫌がらせ」の79,190件(前年度比9.6%減*1)は9年連続で最多を記録しています(出典:令和2年個別労働紛争解決制度の施行状況  厚生労働省より)。

    前年度比9.6%減*1:
    「いじめ・嫌がらせの減少(対前年-9.6%)は、令和2年6月、労働施策総合推進法が施行され、大企業の職場におけるパワーハラスメントに関する個別労働紛争は同法に基づき対応することとなったため、同法施行以降の大企業の当該紛争に関するものはいじめ・嫌がらせに計上していない( <参考>同法に関する相談件数:18,363件)。
  • 労働紛争増加の背景にある環境変化
    労働紛争が増加した背景には、国際的な企業間の競争激化、経済効率を上げるための事業の統廃合、徹底したコストダウンといった経済的環境変化やその他の様々な要因が相互に関連して現状に至っていますが、以下もその一因として考えられます。

    経営者と従業員の意識の乖離
    例えば、過剰に生産性を重視する経営者が若い従業員との間で仕事や生活への価値観の違いにより次第に溝が深まり、この様な状況下で労働条件変更や不当解雇を行うことでトラブルが発生することがあります。また、正社員の占める割合が低下し、パート・アルバイト・派遣社員・期間契約社員などの割合が高くなるといった就労形態の変化も労使間における価値観の違いが生ずる一因であると考えられます。

    複雑化した労働関係諸法令への対応不足
    労働災害や労働紛争が増加すると、労働基準法・労働安全衛生法の改定や労働省通達等の発令が頻繁に行われます。また、労働契約法や労働施策総合推進法などが施行され、企業側で就業規則などの改定が追い付かないことも見受けられます。
    例えば、直近8年間において個別労働紛争の原因に占める「いじめ・嫌がらせ」の割合は最も高くなっており、これは厚生労働省がハラスメント防止対策を報告書にまとめ、法整備への議論を進めてきたことでハラスメントに対する意識が高まり、問題が顕在化したことが背景にあると考えられます。

    行政の指導・監督強化と個別労働紛争解決制度*2の充実
    働き方改革を推進する環境下にあって、労働監督行政は企業の労働に関する指導・監督強化を図っていると共に、総合労働相談コーナーに寄せられる相談や「助言・指導」および「あっせん」の運用を的確に行うなど、個別労働紛争の未然防止と迅速な解決に向けた充実を図っています。

「個別労働紛争解決制度」*2:
個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、早期に解決を図るための制度であり、その紛争解決援助制度には「総合労働相談」、都道府県労働局長による「助言・指導」、紛争調整委員会による「あっせん」の3つの方法があります。

現代は、働き方改革により、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する方向へ進んでいます。また、現在直面している新型コロナ禍下においては、テレワーク導入により多様な労働時間制度の活用が必要になっています。
このことからも、企業は、今後も増加する労働紛争に備えて、就業規則などの整備や運用改善を通じた対策の実施が求められます。

 

 

 

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