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第14回 「ストレスチェックの活用効果」

最近は、ハラスメント防止研修の実施時に、「ハラスメントの定義やハラスメント該当行為について正しく理解できました」、「これからは時代感覚を正しく持ち、より一層ハラスメント防止に努めていきます」といった受講者の声を耳にします。

現代は、組織の一員として労働者が画一的な価値観や考え方を持つことが求められる時代から多様な価値観や考え方を持つことが当たり前の時代に変化してきており、この変化に気付いていない労働者は、いつハラスメントなどのトラブルを発生させてもおかしくないリスクを背負って仕事を続けている状況にあると言えます。残念ながら、行為者が十分な自覚を持たぬまま行う加害行為が後を絶たず、被行為者に心理的負荷(ストレス)がかかり、メンタル不調に陥る事例が未だに数多く見受けられます。

本ニュースの第7号でも触れましたが、厚生労働省はメンタルヘルス不調に関する労災認定審査の迅速化を図り、精神障害の労災請求事案に対して迅速かつ適正な対応を行うため、「心理的負荷による精神障害の認定基準*1」(平成23年12月26日)を新たに定めました。

あわせて、厚生労働省は、仕事に対して強い不安やストレスなどの心理的負荷を抱えながら業務に従事している労働者の問題解決策として、そのリスク要因を取り除く目的でストレスチェック制度*2の義務化を図りました。

今号では、おさらいの意味でストレスチェック制度の目的と効果について取り上げます。

  • ストレスチェック制度の目的と効果
    常時50人以上の労働者を使用する事業者には、1年以内ごとに1回ストレスチェックを定期に行うことが義務化されています。その一方で、それ以外の事業場(常時50人未満の労働者を使用する事業場)についてはストレスチェックの実施が努力義務とされているため、ストレスチェックを毎年実施してない事業場が多くあります。

    ストレスチェック制度の主たる目的は、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)であり、「労働者自身のストレス状況に対する気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調リスクを低減させること」、「検査結果を集団的に分析して職場環境の改善につなげることで労働者がメンタルヘルス不調になることを未然防止すること」にあります。

    「ストレスへの気付き」は、労働者自身がストレスを過度にためず、ストレスと上手に付き合っていく上で重要です。「なかなか寝つけない」、「熟睡できない」、「夜中に何度も目が覚める」、「イライラする」、「怒りっぽくなった」という症状も、こころの不調を現わすストレスサインの代表例です1. 自社方針を就業規則などに規定し、従業員へ周知、啓発を行う。

    事業主は、労働者自身がストレスに気付く機会を与え、労働者がストレス性疾患を発症する前に相談を受け付けるための窓口を設置するなど職場環境の整備に取り組むことが必要です。

    ストレスチェックの集団分析結果からは高ストレスである労働者が多く所属する部署が明らかになります。この結果と労働環境や労働時間などの情報を合わせて評価することで、職場における改善課題が明らかとなり、職場環境を改善するための対応策を検討することが可能になります。
「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」(平成28年度厚生労働省)によれば、パワーハラスメントが職場や企業に与える影響として考えられるものを全て教えて下さいとの質問に対して、「職場の雰囲気が悪くなる」93.5%、「従業員の心の健康を害する」91.5%、「従業員が十分に能力を発揮できなくなる」81.0%、「人材が流出してしまう」78.9%、「職場の生産性が低下する」67.8%、「企業イメージが悪化する」54.1%、「訴訟などによる損害賠償などの金銭的負担が生じる」45.7%といった回答を調査対象企業から得ています(複数回答)。
 
事業者は、これらの問題が表面化するまでの間はその対応策に着手できません。表面化した段階で、企業経営に多大な影響を生ずるリスクを抱える事態に至らぬよう十分な注意が必要です。とくにストレスチェックを定期的に実施していない事業者については、労働者のストレスサインを見落としがちな傾向があるため、実施義務がない場合にも、ストレスチェックや集団分析結果に基づく職場環境改善に取り組むことをお勧めします。
 
ストレスチェックや職場環境改善には手間やコストが掛かると考え、その導入や実行に二の足を踏むケースもあるものと考えますが、これらの取り組みは労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止できるだけでなく、従業員のストレス状況を改善し、働きやすい職場環境を実現することを通じて事業全体の生産性向上を図るための経営施策であると位置付け、積極的かつ継続的に取り組んでいくことが望まれます。
 
認定基準*1のポイント:
①    わかりやすい心理的負荷評価表(ストレスの強度の評価表)を定めた
②    いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、その開始時からのすべての行為を対象として心理的負荷を評価することとした
③ これまで全ての事案について必要としていた精神科医の合議による判定を、判断が難しい事案のみに限定した

ストレスチェック制度*2:
平成26年6月25日に公布された「労働安全衛生法の一部を改正する法律」(平成26年法律第82号)
労働安全衛生法 第六十六条の十(心理的な負担の程度を把握するための検査等)の検査を「ストレスチェック」という。また、その結果に基づく、面接指導の実施を事業者に義務付けること等を内容としたストレスチェック制度が創設された。

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